祈りにかえて

雑感雑記の文章練習・読書日記・調べもの進捗報告書/140文字以上用メモ

あれほどまでに遠く、これほどまでに近い

  『読書の日記』が終わらないせいで読書全体のモチベーションが下がっています。気づいたんですけど、読書と同じくらい「読了したぜ」記録をつけるのが好きなんだ。そして『読書の日記』は1000頁あるんだ……。この前引用した

  終わりが見えてきたときに往々にしてそうなるように、すごく読み方が雑になっていった。「どうなるの?」が先に立ってしまって、注意がすごく雑になる。「どうなるの?」に直接関係のない描写とかをしっかり読めなくなる。

 (『読書の日記』)

 っていうのは、もしかしたら「読み終わった」という達成感が早く欲しくなるせいかもしれないです。いや筆者は知らないけど私はそうですたぶん。

 数でマウント取りたいわけでもないし、実際取る気もないんですけど、冊数が全く気にならないかと言われると微妙っちゃ微妙です。『読書の日記』は中盤だし、日記なので一回放置してもいいのかなと思いました。読み飛ばしするくらいなら……

 断っておきますが『読書の日記』はどちゃくそ面白いです。内容が悪いとかではないです。

 

そして一方アーダは、眼状斑点や唇弁を細かく描き込みながら、熱中のあまりに口の端で舌先をくるりと巻き、太陽が見守るなか、幻想的な黒・青・褐色の髪をした少女が、今度は逆に「ヴィーナスの鏡」と呼ばれる蘭を擬態しているように見えた。ゆるやかな薄物の部屋着はたまたま背中の部分が深く切れ込んでいて、突き出た肩骨格を前後に動かし頭を傾けながら背中を凹ませるたびに――たとえば、絵筆をしばし宙に浮かせたまま、濡れている作品の出来具合を眺めたり、左手首の外側で額にかかった髪を払いのけたりするときに――彼女の席ぎりぎりに近づいたヴァンは、なめらかな背筋のくびれを尾骨のところまで視線でたどり、彼女の全身から発散される熱気を吸い込むことができた。心臓をどきどきさせ、情けなくも片手をズボンのポケットに深く突っ込みながら――昂ぶりを隠すために、十ドル金貨を六枚も入れた財布をそこにしまっていたのだ――彼は作品の上に屈み込む彼女の上に屈み込んだ。あたたかい髪と、熱いうなじに、渇いた唇をほんの軽く走らせる。それは少年がこれまでに経験した中でも、この上なく甘美で、この上なく強烈で、この上なく不思議な感覚だった。あの冬のあさましくも淋しい交渉のどこにも、この和毛のように柔らかな情愛を、この絶望的な情欲を再現するものはなかった。首筋のまんなかにある小さくて丸い喜びの核の上で永遠にとどまっていることもできたが、それは彼女が永遠に首を傾げたままでいてくれたらの話――そして、哀れな少年が狂おしさのあまりに我を忘れて身体をこすりつけることもなく、蝋のように動かなくなった唇による接触の恍惚感にこれ以上耐えることのできればの話だ。剥き出しになっている耳のあざやかな朱が指し、握っている絵筆にだんだん麻痺状態が広がっていくのが、愛撫に圧力が増してきたのを彼女が感じている唯一のしるし――恐ろしいしるし――だった。

(『アーダ(上)』)

 

www.sankei.com

>「心がけたのはなるべくエロチックに訳すこと。ユーモアも忘れずに」と若島さん。